チリン、チリン―――

三橋の部屋で風鈴が涼しげな音を響かせていた。
榛名はベッドで横になり、三橋はさっきから風鈴を持ったままその音に耳を澄ませている。榛名はそろそろ手持ち無沙汰となって、読みかけだった雑誌を傍に置いた。

「おまえ、さっきからずーっと風鈴ばっか見てんじゃねえか」
「だって、これ すごい、綺麗な音、してる、から」

三橋はそう言ってまた風鈴を鳴らす。
耳をくすぐる音は可愛らしく、そして透明感溢れている。
そもそもこれは榛名が三橋に買ってきてやったものなのだ。
喜んでもらえたら嬉しいが、まさかここまで喜ばれるとはプレゼントした榛名自身思わなかった。

「たかが風鈴じゃねえか」
「でも、オレ、こういうのもらったの、はじめてだから、」

だから嬉しい、です、と三橋は小さな声で続けた。
プレゼントをあげたりもらったり、そういうことから縁遠そうな三橋だから、感激も人一倍らしい。
もうぎゅっとしたくなる可愛さだ。榛名は風鈴よりもずっと三橋を愛でたいと思う。
榛名は癖のある髪をわしゃわしゃと撫でてやる。三橋は小さく肩を竦めた。
そして首を傾げて、榛名を不思議そうに見つめた。

「よし、じゃあ、また何か買ってやるよ」
「お、オレも、何か榛名さんに、あげたい」
「じゃ、オレは廉がいい」
「……え?!」
「――うっそ(でも半分はホントだけど)」

きつい冗談に聞こえたのか、三橋は心臓を押さえている。
まったく榛名が喜ぶ反応に事欠かない奴だ。
榛名は三橋の手から風鈴を取ると、それを頭上高く持ち上げた。

「これ、どこにつける?」
「あ、どこ……どこにしよ」
「(こいつずっと持ってるつもりかよ…。ま、らしいけど)普通、やっぱり窓際だろうな」
「じゃあ、ここら辺に」
「なんかフックみたいなのねえの?」
「え、えっと」

三橋は慌てて転がるように部屋を飛び出すと、S字のフックを持って息を切らして戻ってきた。
榛名は「つけてやるよ」とそれを受け取って、カーテンのレールにかけて風鈴を引っ掛けた。ずっと止んでいた風がまた吹き始めたのか、カーテンの裾が風にはためく。

「よし、これでいいな」
「榛名さん、あ、ありがとう」
「別にそんなお礼言われることしてねえんだけどな……」
「これ大切に、します、ねっ」
「オレのことも同じくらいよろしく」

榛名がそうおどけて言うと、三橋はきょとんとした後で微笑んでから大きく頷いた。
爽やかな風が部屋に入ってきて、窓につけたばかりの風鈴が揺れる。
その音色に目を細めつつ、榛名はゆっくりと三橋の肩に手を置いた。

チリン、チリン―――





涼やかなる風の音

ただうれしくて、愛しくて――君が。


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