飲み終わったグラスに残った氷。
暑さで口の中はすぐに潤いを欲する。気休めに氷を口に含み、ガリガリと噛み砕く。
最後の一つを口に含み、榛名は飴を溶かすよう口の中で転がしていた。

と、何を思ったかすぐ隣に座っていた三橋の襟首を突然掴んで引き寄せ、口付ける。
自らが含んでいた氷を口移しすると、三橋はビクリと体を強張らせた。
なおもキスを続ける榛名の舌が三橋の口へと入り込み、氷の欠片を動かす。
慣れない感覚に三橋は小さな呻き声を上げた。
唇を離せば、三橋は少しばかり恨みがましい目で榛名を見上げた。

「驚いたろ?」
「榛名さん、ひ、ひど……」
「もう溶けたんじゃねえの?」
「う、ううん、まだ」

三橋は口を開いて、中を見せる。
まだ舌の上には最初よりかは小さくなった氷が乗っかっている。
榛名は不意にそこに指を入れた。はひゃっ、と三橋が慌ててその腕を掴んで止めさせようとした。
これが左腕で、右の人差し指じゃなければ、まだ力を入れて無理矢理にでも引っ張ることも出来たのだ。それがくやしい。三橋にとって、榛名の右手は傷つける訳にはいかない大切なものなのだ。

「はぅなふぁん、ひゅび……」

そんな三橋の混乱や戸惑いに構わず、ゆっくりと動かして榛名は歯列をなぞった。
うぅ、と三橋は呻きながら、深く咥えまいとして後ろへ体をずらそうとする。
榛名はしかし指を引っ込めることはせず、なおもその反応を楽しんでいる。
こうなったら止めてくれと懇願しても、かえって面白がって榛名が止めないだろうことは三橋も学習してきていた。仕方なく、榛名の気が済むまで我慢することにする。

「……あれ?もう諦めた訳?」

榛名はつまらなさそうに口を尖らせると、予想通りあっさりとその指を抜いた。
三橋はようやく息をつき、袖口で口を拭った。榛名は抜いた指をしばらく見つめ、ゆっくりと自分の指に舌を這わしてぺろりと舐めた。三橋はその様子を目にしてしまい、ドキッとして固まった。
その動揺を感じ取ったのか、榛名が面白そうにちょうど三橋と目を合わした。
気持ちを見透かされたようで、三橋は思わず羞恥から目を逸らす。

「なぁ、もっかいキスしよっか」
「……え?」
「ほら、こっち来いよ」
「榛名さん、ゆ、びが……っ」


氷は熱で溶かされて跡形もなく、もう残っていない。
溶ける氷と同じように、この身も熱で溶かされてしまえばいい。


そんなことを思いながら、榛名はゆっくりとその熱さに身を委ねた。




溶ける氷のように

君と一緒にいっそ溶けてしまいたい


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