足りない。
足りない。足りない。
足りない。足りない。足りない。足りない。
足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りな……

(会いたい―――)


あ、いらっしゃ……と榛名を部屋へ上げた途端に三橋は強く抱き締められた。
まるで会わなかった分を今すぐにでも補おうとするかのように、力を込める榛名に三橋は戸惑いながらも、ゆっくりおずおずと自分も背中に腕を回す。
いつまでそうしていただろう。身動きもせず、夏の暑い中くっついていた二人だったが、榛名がようやくほぅっと息を吐いて三橋を解放した。納得したということなのだろうか。
榛名さん?と首を傾げる三橋に、「久しぶりだな」とようやく会話らしい言葉を交わす。

「元気だったか?」
「はぃ。榛名、さんはどう、でした?」
「オレ?オレは相変わらずしごかれてたよ」
「オレも、阿部君に怒られて、ばっかで、昨日も……」

怒られた時を思い出しているのか、三橋は榛名の前だというのに完璧にトリップしていた。
榛名は面白くなさ気に眉を顰めるとデコピンをくらわした。イタッ、と三橋は額を押さえて榛名を見る。何でいきなり、と思っているのをその潤んだ瞳が雄弁に物語っていた。

「おまえ、オレと二人の時に別の奴のことなんか考えんな。特に隆也のことは論外」
「な、んで?」
「オレが嫌だから」

榛名さん、強引だ、とは三橋なりの精一杯の不服の言葉だろう。まだ納得がいかなさそうだった。
だが榛名にとって阿部隆也は、もはやかつての生意気な後輩というだけでなく、今では嫉妬の対象でしかありえない。榛名よりも三橋を独占しているような気さえしてくる。その心でさえも。
人と比べても独占欲の強い榛名からすれば、会っているときには自分だけを見てほしいと思うのは、ごく当たり前の感情だ。いまいち三橋はその点をよくわかっていない気がする。榛名の心はいつだって、渇きに飢えて三橋を欲しているというのに。わかっていないのだ。

「ごめん、ちょっと今日はもう無理だ」

我慢できない、と続けるより先に三橋を抱えてベッドに放り投げるようにして、その上からのしかかった。慌てて体を起こそうとした三橋だが、全体重をかけられ、あっさりと抵抗を封じられた。
榛名は三橋の気持ちもお構いなしにシャツのボタンに手を掛けるといとも容易く外していく。それを見て焦せりから上擦った声で、「は、榛名さん!」とその名前を呼んでも止まらない。仕方なく身を捩って逃げようとしたが、その間にもシャツのボタンは外されていく。。

「あー、駄目駄目。逃げようとしたって無駄だから」

榛名が空いた隙間から手を忍びこませて肌を撫でると、三橋の体が自然と浮いた。
その反応ににやりと口の端を上げて笑った榛名は、さらに三橋が弱いと思われるところを攻め立てた。最初こそ嫌がる素振りを見せていた三橋だが、すぐにあっけなく陥落した。今では与えられる刺激に耐えるのに精一杯で、必死に声を出さないように唇を引き結んでいる。

ならそれはそれでいい。

榛名は三橋の体の上を移動する。鎖骨に口付けを落とし、その肩に歯を立てる。
所有の証とでも言うように跡をつけて、満足気に指でなぞってその上からまたキスをした。
榛名さん、と名前を呼ばれて顔を上げた。潤んだ瞳がキスをねだっているのだとわかる。そう言えば、まだ今日はしていないはずだ。物欲しげに潤んで揺れる瞳に思わず喉が鳴った。だが、榛名はその唇に人差し指を当てると、悪戯っぽく笑って見せるだけだった。

「今日はまだ、おあずけだ」

もっと気持ちよくしてやるよ、と榛名は三橋のシャツをベッドの下に勢いよく放り投げた。
三橋がそれを目の端で追っているのがわかる。自分のシャツも脱ぎ捨て、榛名はさらに追い立てるように、動き始めた。ファスナーに手がかかると、さすがにただ喘ぐしかなかった三橋も身をさっきよりも本気になって身を捩って、その腕から逃れるようにもがいた。背を向けられ、榛名は仕方なく後ろから抱きかかえるようにして捕えると、三橋の首筋に顔を埋めた。

「キスしようぜ」
「……で、でも」
「こっち向けって」

わずかに体を横に向けた三橋の顎を掴むと、ゆっくりと顔を近づける。
薄く開いた唇から舌を入り込ませると、絡ませてなおも深いキスを続ける。三橋に息を継ぐ暇さえ与えずに、ただ榛名はその唇を貪る。榛名の肩を強く掴んでいた三橋の手からは力が抜け、ぐったりと白いシーツの上に投げ出された。体もまたそれと比例するようにシーツへと沈んでいく。
繰り返す長いキスの間に、榛名は「廉」と短くその名前を呼んだ。

「榛名、さ、ん」
「まだ楽させてやれねえからな」

本番はまだまだこれからだ。
たぶん今日は三橋のことを気遣う余裕なんて自分にはないという自覚が榛名にはあった。
ただ貪りたい。愛したいという欲求だけが榛名をこの瞬間も突き動かしている。
きっと無理させるだろうと思うから、先に心の中でだけ三橋に謝っておいた。


あぁ、まだ自分は満たされていない。もっと、もっと……





渇きに喉が鳴る

おまえが欲しい。そして、このまま満たされたい全て。


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