「なぁ、オレのもんになっちまえよ」

榛名は三橋ににじり寄り、その瞳に自分だけが映るように覗き込んだ。
三橋の喉がごくりと上下する。何かに怯えたようにその肩がわずかに震えていた。

「オレが怖いか?」
「こ、怖くは、ない…です」


――嘘だ。
そう言ってやったら三橋はどんな顔をするだろう。
泣いてしまうだろうか。それとも、逃げてしまうだろうか。
榛名はその自らの想像に笑みを零す。愉快さに漏れたのは、喉が引き攣ったような声だった。
あぁ、あまりにも自分が滑稽で、そんな自分がおかしくてたまらない。
自分でも意外なほどの三橋への執着も強い独占欲も、まったく予想外だ。
好奇心から近づいただけなのに、いつの間にか深く嵌って抜けられなくなっていく。
そんな榛名の葛藤に何一つ気づかずにいる、三橋が愛しくもあり、同時に憎くもあった。

(誰かが言ってたっけ?愛と憎しみは裏表だって……)

強く抱き締めると同時にゆっくりと首筋に舌を這わした。
滑らかな肌を味わうようにして、一つキスを落とす。三橋が短く声を漏らした。
なおも腕を緩めないで、そのまま性急に榛名は事を進めていく。
ベッドの上に移動することすら煩わしい。床の冷たさに三橋の体がわずかに強張ったのがわかる。
だが、榛名の動き一つ一つに翻弄されている三橋は最早訳もわからず、されるがままの状態だった。時折喘ぎ声に混じって聞こえる嗚咽も懇願の言葉も、榛名をただ煽るだけ。
キスの途中に服をはだけさせたまま、床に押さえつけるようにして、さらに自身の体で動きを抑える。そこでようやく動きを止めた榛名は、押し倒した三橋を見下ろすようにして、その髪をゆっくりと撫でた。その手はまるで小さい子どもをあやすようにやさしい。
三橋は息苦しさからなのか、ぼんやりと焦点の合わない瞳で榛名を見つめ返した。

「――好きだぜ、おまえのこと」

三橋は答えることはせずに、ゆっくりと瞳を閉じた。
その眦から一筋の涙が線を描く。
瞼に口付けを寄せ、それに三橋がわずかに身動ぎした。


自分はきっと今醜い顔をしていることだろう。
口の端を上げて、自分自身を嘲笑するかのように榛名はその顔を歪めた。

夜の闇に隠せない狂気だけがこの場所を支配している――。





夜にわらう

夏の夜に潜む闇、ちらり見え隠れするその狂気は――


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