疲れているのは十分に知っている。 昨日部活の仲間が家に上がりこんできて、夜遅くまで眠れなかったのはすでに聞いていた。 「おい、高瀬。こら寝るなっ」 「うるさい」 躊躇うことなく背を向けた彼は、予想通りの素っ気ない態度でにげもなく榛名の命令を却下した。 眠るから話しかけるなとその背中が悠に物語っている。今までの付き合いから、すでに諦めにも似た気持ちが胸に去来していた。せっかくの休日、しかもお互いが休みであることはごく稀だ。ましてこうやって過ごすことなど滅多にできやしないというのに……。 落胆した榛名は大袈裟なまでに溜息をついて、肩を落とした。そして構ってくれと言わんばかりに、その名を飽きもせず、半ば意地になって呼び続けた。二十回を過ぎた頃、くるりと体を向けた準太は、 「じゃあ、おまえも寝れば?」 あっけらかんと言い放ち、ほら、とポンポン自分が今寝そべっているベッドを叩いた。 榛名は準太とベッドを交互に見比べ、そして小さな下心を持ってその提案に乗ることを決めた。 「でも、何かしたらマジで怒るぞ」 読まれていたのか(はたまた前科がなくもないせいか)、予め釘を刺されてしまった格好となった。 準太に思わず綺麗だと男でも思うような笑顔で凄まれると、普段オレ様だ自分勝手だと人一倍言われている榛名ですら躊躇いが生じる。臍を曲げるとどこまでもしつこいのだ。なかなか自分から折れるということがない。特にこういうつれない態度の時は。プライドの高さはお互い同じである。 「じゃあ、キスだけ。いいだろ?」 「……………………ったく」 仕方ないという面倒くさそうな態度も多少気に食わないが、彼がそれで応じるならばよしとしておく。榛名はいそいそとその距離を縮めると、唇を重ねた。顎に手をかけると、そのまま深く口付けていく。中途半端に寝そべっていたのが好都合だ。不安定な姿勢で満足に抵抗できないのをいいことに、なおもしつこく続けると、最後には強引に引き剥がされた。 「……お、まえ、…なっ…」 息も絶え絶えに準太は榛名をきつく睨みつける。が、榛名は平然と余裕の笑みで応じた。 もういい、と何か言いたげな顔のまま口を噤むと、呆れた様子で彼は再び寝る姿勢に入った。 「え、おい、ちょっと待てって!オレはどうすんだよ」 「もういい、おまえの相手すると余計に疲れる」 「うわ、ひでェ」 「起きて時間があったら相手してやるよ」 なだめるように、ひらひらといい加減に手を振られた。バカ、それじゃ子ども扱いだろうがとふてくされていたのも束の間、規則正しく肩が上下するのに榛名は気がついた。ベッドのスプリングが軋む音で起こさないよう、そっと覗き込めば、すでに準太は眠りについていた。 綺麗な寝顔、そしてこんな無防備な姿は用心深い彼がそう他人の前で見せるとは思えない。 「ま、仕方ねえか」 榛名はその横にごろりと寝転がると、自分も目を閉じたのだった。 穏やかに過ぎる午後、眠る君と
なぁ、起きろって、おい、榛名!本気で眠るなよ、昼間っから……。 △menu |