本当は泣きたいくせに。

そう思っても本人がそれを隠そうとするのだから、仕方ない。
本当は、我慢しないで泣いてしまえばいいと言ってやりたい。無理なんてしなきゃいいんだ。
だけど、それはきっとこの人のプライドが許さない。
それに彼の前でだけは絶対に泣きたくないのだというのは、自分が一番よく知っていた。

――アイツは、オレの前じゃもう絶対泣こうとはしねェんだよ利央

そう言って寂しげに笑った顔は、この人への親愛の情に満ちていて。
その優しさがこの人をなおのこと頑なにさせる。強がらせている。それに気付いていたんだろう。
彼は哀しいほどにこの人を理解していて、だからこそ今この場を後にするのだ。
本当は誰よりも一番傍にいてやりたいと思っているのに。

(バカみてェだ、準サンも和サンも)

部室の扉が閉まる音と彼の堪えきれなくなった嗚咽はほぼ同時で、オレは離れることもできずにただ佇んでいた。息苦しさとくやしさに頬が熱くなる。何かしたくても、オレには何もできないのに。

――おまえが傍にいてやるといい。それでも、アイツは泣けるから


(バカだよ、準サン。いくら我慢したところで、アンタのことは全部お見通しなんだあの人は)




気づかないフリなんてできない

オレは和サンの代わりだ。この人はオレにいてほしいんじゃないんだ。


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泣いて笑って騒いで、怒って――とにかく感情表現が激しい奴だという認識。
別に底が浅いとか言うつもりはないが、今見てしまった光景に思わず驚いてしまったのは仕方ない。
誰かを思って耐え忍ぶように涙している姿なんて、とてもじゃないが想像できなかったのだ。

「おまえには……、そんな芸当とてもじゃないけど出来ないとオモッテタヨ、利央」
「何それ途中から棒読みだし、慎吾サンオレのことどう思ってた訳?」
「オレのカワイイ後輩で、生粋のおバカさん」
「……なっ、ムカつく!」

そういう答え方をするところがまさにそうだと言っているのだ。
でもカワイイ後輩が一人で泣いているのを放っておけるほど人ができてない訳じゃない。
照れ隠しにそっぽ向いたままでいるその隣に黙って腰を下ろした。
なんで?ってわざわざ聞いてくるあたりが、まだまだバカでガキな証拠だ。自覚持てよな、おまえ。

「それがわかったからおまえをバカじゃないって褒めてやるよ」




今だけは優しくしてあげる

一人で泣くなんて似合わないことすんなって


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